「 外相会談を断られた鳩山政権 日米関係の危機を直視せよ
『週刊ダイヤモンド』 2009年11月7日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 812
日米関係が最悪である。10月20日に来日したゲーツ米国防長官は、岡田克也外相との会談で、沖縄の普天間飛行場を沖縄本島北部の名護市に移設する問題について「現行案が唯一、実現可能な案だ」「オバマ大統領来日の前に結論を出してほしい」と述べた。
普天間の返還と移転は1996年に日本政府が要請したにもかかわらず、その合意を実行に移すことが出来ず、13年が過ぎた。合意から10年後の3年前、あらためて日米政府間で確認し合ったのが現行案。米国側が合意を守るべきだと言うのはもっともだ。
沖縄県知事の仲井眞弘多氏は、滑走路を少し沖合に移動してくれれば、現行案で受け入れると言っている。「県外移転をせよ」とは、一応口にするが、現実的に困難だと認識しているからである。また、沖縄県の経済界には、名護市への移転に向けての流れがすでに形成されてきた。
確かに、民主党の公約は、普天間の移転先は海外、もしくは県外であるべきだというものだ。鳩山由紀夫首相は、公約にこだわり、今、「最低でも」県外移転だと繰り返す。岡田外相は、県外移転は口にしなくなったが、名護市ではなく嘉手納基地に統合すべきだと主張する。
だが、嘉手納移転には、地元の嘉手納町と米軍の双方が強い拒否反応を示している。主張を変える気配がない岡田外相は、いったいどのようにして嘉手納基地との統合を実現しようというのだろうか。
民主党首脳が迷走するなか、担当大臣の北澤俊美防衛相が興味深い主張を展開した。現行案は民主党の公約に反するものではないというのだ。北澤防衛相は、2006年の在日米軍再編計画で沖縄の米海兵隊の一部をグアムへ移転すること、および普天間飛行場のKC130空中給油機を山口県の岩国基地に移転することが盛り込まれており、これは民主党の公約の「国外移転、県外移転」に相当するというのだ。
舌を巻く現実的な解釈である。米国が普天間移設が実現しなければ海兵隊の一部引き揚げも白紙に戻すとまで言ってきている今、北澤防衛相の解釈は、政治家としての知恵の働かせどころだった。
民主党は多くのことをマニフェストに盛り込んでいるが、それらは恐ろしいほどに現実無視の視点でつくられている。実際に政権を手にして、日本国の運営をしていくとき、現状把握の出来ている政治家なら、中国の脅威の前に日本の安全を担保する枠組みとしての日米同盟の重要性を痛感するはずだ。だが、鳩山、岡田両氏には、現実を見て理解する能力が欠けている。だからこそ、両氏はただちに、「必ずしもそのようには思わない」「論理的にちょっと苦しい」とおのおの述べ、北澤防衛相の解釈を否定した。
鳩山政権は来年1月、インド洋での給油、給水活動の中止も決めている。ヴァンダービルト大学教授で米国における最も親日的な人物の一人、ジム・アワー氏が述べる。
「米国はすでに日本からの給油も給水も受けていませんから、直接的な影響は少ないでしょう。しかし、30ヵ国近い国々が協力しているアフガンでのテロとの戦いから、日本がすべて引くことは、むしろ日本にとって深刻な意味を持つのではないでしょうか」
ゲーツ国防長官は、外相防衛相主催の晩餐会も自衛隊の栄誉礼を受けることも拒否した。岡田外相が申し込んだクリントン国務長官との会談も断られた。オバマ大統領の来月の訪日は、日程が大幅に短縮された。日米関係はまさに危機である。
中国の脅威の前に、日米同盟をより必要とする国は、米国よりも日本である。鳩山政権は厳しい国際情勢を認識し、その対米外交と安全保障政策を根本から見直すことだ。そのうえで、日本の防衛力の整備に努めよ。